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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1207号 判決 1949年2月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人飯島豊の上告趣意第一點について。

互に暴行し合う所謂喧嘩は、闘爭者双方が攻撃及防御をくりかえす一團の連續的闘爭行爲であるから、闘爭のある瞬間に於ては、闘爭者の一方がもっぱら防御に終始し、正當防衛を行う觀を呈することがあっても、闘爭の全般から觀ては、刑法第三六條の正當防衛の觀念を容れる餘地のない場合があること、既に當裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三三九號、昭和二三年六月二二日言渡第三小法廷判決。昭和二三年(れ)第七三號、昭和二三年七月七日言渡大法廷判決)の示す通りである。本件について原判決の確定した事実及びその引用の證據によれば、被告人は、その同伴者佐藤が組數かれているのを制止しようとしたところ、相手方から毆られたので、これを毆りかえして死亡するに至らしめたのである。即ち被告人は同伴者の喧嘩の渦中にまき込まれたのであって、全般的に觀ると正當防衞と言うことはできない。それ故に原判決がこれに有罪の言渡をしたのは當然であって、所論のように罪とならない行爲に對して有罪の言渡をした違法はない。

論旨は、上告人が原審公廷に於て正當防衞の主張をなしたにも拘らず、原判決が之に對して何等の判斷をも示さなかったのは、刑事訴訟法第三六〇條に違反するものであると主張しているけれども、原審公判調書について觀れば、被告人も辯護人も正當防衞の主張をしたものとは認め難い。故に論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由に依り刑事訴訟法施行法第二條、舊刑事訴訟法第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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